Yahoo!検索

  • このサイト内を検索
  • ウェブ全体を検索


ニュースはブログで!

第2章 ボートボーイ探検隊

 初日に行われた開会式では、森秋光の投げたボールをゲットしたものの(サイン入りポロシャツと交換)、舟券は的中ゼロに終わった。まあいい、まだ5日間もあるんだ。めげることなく、開催2日目の競艇場にやってきた。昨日に引き続いて、今日も雨が降っている。

 この日は、競艇専門雑誌「ボートボーイ」主催の「ボートボーイ探検隊」なるイベントが行われることになっていた。同誌のプロデューサーである桧村賢一氏や、元選手で現評論家の吉田清志氏、そして「ボートボーイガール」の山本優子嬢らと、舟券やピット見学を楽しもうという企画である。都内在住の読者から参加希望のハガキが来て担当者は面食らっただろうが、なんとか参加者決定の抽選をクリアしてこの日を迎えたのだった。

 定刻に待ち合わせ場所の正門前に行くと、すでにほかの参加者は集まっていた。総勢10人ちょっとで、女性がやや多いだろうか。子連れの夫婦から、いかにも出待ちをしてそうな女性グループなど、2〜3人のグループが多く、1人で参加している人はあまりいない。ふだんの競艇場の客層と比較すると、総じて若い人が多い。ボートボーイがどちらかといえばミーハーなファン寄りの雑誌なのだから、コテコテの舟券オヤジが来ることはないだろう。

 全員そろったところで入場する。連れて行かれた先は、2M側の指定席だった……って、オイオイ、来賓席じゃないのかよ! と俺は叫びたかった。
 勝手な思い込みといえばそうなのだが、この手の企画ものはVIP席らしき場所で行うものだと思っていた。ここって、普通の指定席じゃん。俺、きのう座ったばかりだよ。周りを見回してみると、吉田氏も山本嬢も平然とした表情で、我々と同じように座っていた。まあ、贅沢は言うまいとあきらめることにした。

 隣の席に座った中年の男性に尋ねられた。
 「どこから来ました?」
 「東京です」
 すると、男性は少し離れた席に座っていた妻に向かって、
 「おーい、このひと東京からだってよ。すごいのう!」
 と大きな声で話すではないか。恥ずかしいからやめてくれって。ほかの参加者や周りの客がこっち見てるよ、ホントに。

 その男性は岡山から夫婦で来たという。ホームプールは児島で、競艇場前の食堂にいつもいるとのことだった。三島誠司や山本浩次らとゴルフをしたり、飲んだりすることもあるという。ちなみに、その後、俺が知った範囲では、ほとんどの参加者が九州からで、岡山から来たこの夫婦は俺に次いで2番目に遠方からの参加者だった。

 ひとまず配られた弁当を食べながら前半レースを皆で打つ。第6レースでカドからスタート一発のありそうな北川を狙ってみた。するとどうだ、4カドを取った北川が一気にまくる勢いで1Mへ向かっていく。思わず「よしゃー!」と声を上げると、見事、北川のまくりは決まった。これで今節いよいよ初当たりかと思ったものの、ヒモの水野を持っていない。そういえば、水野は唐津は得意だったんだよな。北川−水野で1680円ついた。

 観戦にひと区切りをつけると、桧村氏の案内のもと、ピットへ向かった。私がこのイベントに参加した最大の目的はこれである。開催中のピットに入れるなんて、めったにあることではない。選手を間近で見られるはもちろん、水面に出ていく選手、戻ってくる選手や、エンジンやプロペラを調整する姿など、いつもスタンドから見ている「レーサー」として選手ではなくて、「仕事」として競艇に取り組む選手が見られるのである。俺の胸は高鳴っていた。

 ピット内は巨大な車庫というべきか、工場のようであった。床は一面ネズミ色のコンクリートで、天井が高い。ボートを台車に乗せて押している選手、試走するために昇降機で水面へ降りていく選手が小走りに行き交い、奥の方ではレジャーチャンネルのインタビューをしているのか、ライトに照らされた明るい空間がぽっかりと浮かんでいる。いくつものエンジンが回転数を変えながらうなる音や、レースの進行を伝えたり選手を呼び出す放送などがピット内に響いて、とにかく騒々しい雰囲気である。

 ピットから水面を見たときの第1印象は、スタンドから見るよりもずっと巨大ということだ。唐津のピットは水面の1M側の短辺に設置されているので、1マークに向かって水面を縦長に見ることになる。そのせいもあるのか、いつもスタンドから見る横長の水面とは違って、1Mがはるかかなたに見えるのである。真下にあるピットを出たボートは見る見る間に小さな点になっていく。これほどに広い水面で、選手は目に見えないスタートラインに向かって100分の1秒単位でスタートのせめぎ合いをするのだから、やはりプロの世界はすごいと感じずにはいられない。

 レース中の選手がゴールラインを通過すると、ピットの奥から選手がぞろぞろと出てくる。やがて、レースを終えたばかりの選手がボートといっしょに昇降機でピットに上がってくると、待ちかまえていた選手たちがボートを取り囲み、手際よくひっくり返して水を抜く。レースを終えた選手はヘルメットを脱いだり、ほかの選手に軽く手をあげて礼を伝えながら、早歩きで奥のほうへと去っていく。

 このとき、選手にとって競艇は「仕事」なんだ、と強く感じた。スタンドから見ているかぎり、選手は競艇という競技の主役、またはギャンブルとしての舟券の対象なのであるが、このピットで舞台裏の選手を見ていると、選手たちの存在がスタンドで見るよりも少し近く感じられるのである。華やかな場で活躍する彼らにとってレースや整備は繰り返される日常なのであり、自分自身や家族の生活を支えるためにこなさなくてはならない仕事なのである。ある意味で生活臭のするこのピットから、あまたの名勝負や感動が生み出されているのかと思うと、少し不思議な感じがした。

 ピット見学を終えてスタンドに戻ると、エスカレーターをあがった先の小さなスペースで、山本優子のサイン会と握手会が始まった。ボートボーイをその場で購入すると、山本優子のサインがもらえ、握手できるというものだった。一般客向けのイベントなのだが、参加者はサクラの役割も含めて半強制的に参加させられることになった。表紙の裏にヘタくそなサインをしてもらったあと、握手する。向こうは両手でやさしく握手してくれたので悪い気はしない。

 「わざわざ東京から来たんですね。すごーい!」
 「はあ。なんか、雑誌とぜんぜん違って見えますね」
 「あ、よく言われるんですよー!」
 「雑誌だとデブに見えますよ」

 と付けくわえたかったところだが、俺も大人なのでやめておいた。正直な話、実物の山本嬢は誌面で見るよりもずっとかわいかった。いかにも「私は一般人じゃないのよ」みたいな、全身ショッキングピンクのいで立ちには閉口したが、やはり周囲の視線をあびることを仕事とする人種はどこか輝きをもっているものなのだ。そう思った。

 再び席へ戻ると、最後の3レースで舟券大会をやるという。成績優秀者には賞品も用意されているらしい。桧村氏がレースごとに、予想のポイントを解説してくれる。先も書いたように、ここはほかの客もいる一般の指定席だ。そんな環境で予想屋でもないのに能書きをたれるのは勇気のいることだと思うのだが、桧村氏は平気なのか慣れているのか、エンジンの出ている選手やスタート行きそうな選手など、注目すべき点をひととおり解説した。

 最終レースはダブルドリーム戦の2戦目。この日以降、今シリーズの主役のひとりとなる寺田がそのエンジンパワーを見せつけたレースだった。2着を今村豊とびっしり競りあった結果、なんと寺田が先着したのである。女子リーグでいくら強いとはいえ、競り落とした相手はあのプリンス今村である。以前に多摩川で、濱村美鹿子が山田豊を競り落としたのを見たことがあるが、それとはスケールが違う。
 このときはただただ驚くばかりだったのだが、いま考えれば、寺田の艇史に残る快進撃が続くことをこの時に予測しておくべきだったのである。


ピットにて

左から吉田清志氏、山本嬢、桧村賢一氏。100円ショップの写真立てに入れられて送られてきたのですが、梱包が雑だったのでガラスは粉々(笑)。



Copyright:(C) 1998-2008 車で旅打ち! takay All Rights Reserved