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ストーリー

そのほかの旅打ち記
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第1章 からつ競艇場

 そこは5階に大きな露天風呂を備えた珍しいタイプのシティホテルだった。
 午前9時をまわった風呂場には私しかいない。石造りの大きな湯船の底に腰をおろして辺りを見渡すと、南側の竹柵越しに近代図書館が見える。
 ホテルと道路を隔てて建つこの図書館は、唐津駅南口に立つと真っ先に目に飛び込んでくる大きな建物だ。真新しいクリーム色をした壁が、雲ひとつ無い真夏の青空が放つ鋭い陽光を吸収している。湯煙の無い真夏の露天風呂は、夏の朝の空に負けないくらいにすがすがしい。

 11時にチェックアウトした。
 唐津の街の落ち着いた雰囲気に魅入られてしまったのだろうか、このまま真っすぐ競艇場に向かうのも惜しい気がして唐津城に寄ることにした。
 ホテルから車で10分ほどのところにある唐津城は、1608年(慶弔13年)に7年の歳月を費やして完成した城である。駐車場に車を置いて、折れながら上へと続く石段をゆっくり上る。すると、頭上の竹格子に繁った透き通るような緑色をした葉の隙間から、5層の天守閣がわずかに見えてきた。

 展望所から眺める景色はまさに壮観だった。
 夏らしい力強い青空の下に、青く澄んだ唐津湾が広がっている。まるでお互いの青さを映しあっているかのようだ。
 その唐津湾に沿って東にのびているのが虹の松原だ。海水浴場の白い浜辺の背を、虹の弧のように美しくどこまでも続くこの松原は、日本3大松原のひとつに数えられている。約100万本の松の群れを真っ白な砂浜が縁取って唐津の海に接している。何の模様もない3つの原色が縦に並ぶ風景がとても鮮やかだ。
 また、城の北側の海に浮かぶ周囲3kmほどの高島には「宝当神社」なる神社があって、宝くじファンに人気があるという。お参りしておけばこの旅の戦果も良いものになりそうな気がするが、宝くじへの御利益が舟券にも通じるとは思えなくて島には渡らなかった。

 正午を少しまわった頃、唐津城をあとにして競艇場へと向かう。
 この日は6日間シリーズの5日目。メンバーを見るとこれが思いのほか豪華で、若松オーシャンカップ帰りの亀本勇樹、山崎義明に野添貴裕がいる。そして、なんと古川文雄がいた。3年前は賞金王決定戦にも出ていたほどの選手であるが、最近は記念戦線であまり姿を見なくなった。この遠い唐津の地で地元の名選手の走りにめぐり合うことができるとはとてもついている。
 準優3レースでは山崎以外の主だった選手はみな2着までに入って、明日の優勝戦へと駒を進めた。私の舟券は、8レース以後あたりが来ず、少しばかりの浮きで全レースを終えた。

 競艇場をあとにすると、まだ陽も高いので先ほど唐津城から見下ろした虹の松原の海岸へ寄り道した。
 松林の中の陰った駐車場に車をとめ、靴下を脱ぎサンダルに履き替えて砂浜へと歩く。午後4時半を回ったというのに平たく陽が差しこむ砂浜では多くの人がくつろぎ、繰り返し小さな波を打つ海もにぎやかだ。しかし、お台場や江の島などとは違って窮屈さを感じない混み方である。
 城の上から眺めたときよりも白くまぶしい砂浜は美しくて、穏やかな海を囲うようにゆるやかにしなって東にずっとのびている。足の先に触れる温かい砂の感触を楽しみながら、しばらくの間、あてもなく歩き回った。


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