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ストーリー

そのほかの旅打ち記
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第2章 小倉にて

 記念すべき2000年の幕開け。芦屋競艇で開催があったものの、今日はあえて「打ち」をオフにした。
 この寒い日にあの古びた競艇場に行ったところで、スタンドで北風に吹かれて風邪でも引くのが関の山だろうと考えたのだ。そこで、ホテルをチェックアウトした後は小倉をぶらりと観光した。

 実は、前回、この地に来た時に見れなくて、そしてまたこの地に来ることがあったら必ず行こうと固く誓った場所があった。松本清張記念館である。私はとりたてて松本清張のファンであるというわけではない。著作は「点と線」くらいしか読んだことはない。それでも、この記念館には何か私をひきつけるものがあるような気がしてならなかった。

 それは、果たして期待を裏切らなかった。外見は小さな図書館、しかし、中は完璧に清張に支配された空間だった。圧巻は、ありのままに再現された東京・杉並区の自宅。玄関、応接室、書斎から書庫まで、2階建ての自宅の大部分が記念館の中に再現されている。
 書斎の散らかり具合、煙草の焼け焦げ跡が残るカーペット、ジャムか何かのビンに立てられた万年筆や鋏など、ディテールまで完璧。じっと見ていると、ぶ厚い下唇の清張が部屋に入ってきて今にも仕事を始めそうな、それくらいのリアリティがあった。北九州市営とのことだが、役所の仕事にしてはキメの細かい、質の高い記念館である。ずいぶんカネがかかっているなあと感じた。

 ガラ空きの都市高速、九州自動車道を飛ばして、博多駅近くのホテルへ向かう。地下の駐車場に車をとめてロビーに上がると、そこは神秘的な静寂だった。円形に吹き抜ける頭上の空間を眺めていると、ボーイが絨毯の上を歩く気配が近付いてくる。

 午後3時、通された部屋でテレビもつけずにぼんやりしていた。壁一面に埋め込まれた大きなガラス窓から鈍く差しこむ西日を全身に浴びていると、なぜか20年も前の小学生の頃を思い出した。西日に照らされた部屋のテーブルやベッドがセピア色に見えたからなのか、音も気配もない部屋が記憶の探索に没我させたからなのか。

元日の小倉城 松本清張記念館の入口
小倉城。昭和34年に再建された。 松本清張記念館。



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